食品微生物の基礎知識
ブドウ球菌属〔genus Staphylococcus〕
【分類】ブドウ球菌属は現在36菌種19亜種に分類されており,自然界においてはヒト,家畜を含む哺乳動物,鳥類に広く分布している.属名StaphylococcusのStaphylo-は「ブドウの房」を意味し,本属は顕微鏡下で特徴的なブドウの房状の菌集塊がみられる.ブドウ球菌属の中で最も病原性が高く,ヒトの化膿性疾患やブドウ球菌食中毒を起こすものは黄色ブドウ球菌である.本菌種はコアグラーゼ陽性であり,これに対して表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)など多くの菌種はコアグラーゼ陰性で,これらを一括してコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(coagulase negative staphylococci;CNS)と総称されることが多い.
【病原性】黄色ブドウ球菌は多種多様な毒素および菌体外蛋白質を産生し,多彩な疾患をヒトに引き起こす.さらに,メチシリン(methicillin)に代表されるβ-ラクタム以外の多くの抗生物質に耐性(多剤耐性)を示すメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が出現し,院内感染の起因菌として重要視されている.ブドウ球菌食中毒は,本菌が食品中で産生するエンテロトキシン(SE)をヒトが摂取することにより発症する.また,コアグラーゼ陽性ブドウ球菌であるS. intermediusおよびS. hyicusもSEsを産生するという報告がある.なお,CNSの多くは典型的な常在菌であるが,ときとしてヒトの感染を引き起こすことがある.
(品川邦汎先生,中央法規出版「食品微生物学辞典」より)
関連リンク
- ブドウ球菌食中毒
- メシチリン耐性黄色ブドウ球菌感染症
(感染症の話,国立感染症研究所感染症情報センターホームページ)